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あの時チャーシューメン奢ってやったことなど忘れていいんだぜ

大学生の頃、後輩にチャーシューメンを奢ったことがある。普通のラーメンではない。チャーシューメンである。当時の私にとって、それなりの出費だった。だが、先輩とはそういうものだ。後輩の前では多少の無理をしてでも、鷹揚に振る舞わなければならない。「好きなもの食えよ」これを言ってみたかったのである。後輩は喜んで食べた。私も満足だった。これでよい。実に美しい先輩後輩関係ではないか。問題は、その後である。私は折に触れ、あの日のチャーシューメンを思い出した。後輩が何か頼み事をしてくる。いいとも、任せておけ。そう答えながら、心のどこかでチャーシューメンが湯気を立てている。後輩が別の先輩を褒める。そうか、あいつは立派な男だ。そう相槌を打ちながら、脳裏にはチャーシューが浮かぶ。何ということだろう。私は後輩に恩を売るつもりなど毛頭なかった。いや、正確には、恩を売ったことを忘れてしまうほど器の大きな先輩になりたかったのである。ところが、忘れない。どうしても忘れない。たかが数百円上乗せしただけのチャーシューメンが、私の人格の中でいつまでも巨大な存在感を放っていた。そして、ある日、ついに言ってしまった。

「あの時チャーシューメン奢ってやったことなど、忘れていいんだぜ」

「……。」 後輩は言葉を失っていた・・・。間違いなくヤバい人間を見た顔をしていた。

おい!オレ!忘れていいなら、言うな!今思い出しても、顔から火が出る。私は何を期待していたのだろう。後輩が感激して「先輩! 一生忘れません!」とでも言うと思ったのか!器の大きな人間になりたかった。ところが、その器はどうやらラーメン丼一杯分もなかった。うわお〜〜〜〜。


あれから随分と歳を重ねた。人に何かをしてあげたことは忘れ、人からしてもらったことは忘れない。そんな人間でありたいと思う。もっとも、そういう立派なことを考えている時点で、あの頃の私とさほど変わらない気もする。そして今でも、ときどき思う。あの後輩は、あの日の「チャーシューメン忘れていいんだぜ」を覚えているだろうか。

頼むから、忘れていてくれ!ほんと頼む!

院長 岡崎伸一