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帰ってきた名曲アルバム③ TAXY 鈴木聖美
しつこいのですが20歳頃の私にとって女性と目を合わせて話をする、ということは今後の人生を左右する緊急の課題であったわけです。ましてや街で笑い合うカップルなど見るともう涙が出てくるような泣き顔になるような自分が自分でなくなるような劣等感でペチャンコになっていたのです。それ以前の目を合わせる、という課題。いや、課題というより季節と申し上げた方が良いのかもしれません。妄想し、学ぶ季節。女性を知らないから女性の表現者から学ぶ■では足りない。でしょ。わかるかしら?シンイチ?こんな年になるまで女の人を怖がり、避けてきて、そんな自分を甘やかしてきた代償は大きいわよ■妄想とはこのように私世界全体を俯瞰するストーリーテラーのような天女のような人物のもとで一人芝居のように展開するのでした。妄想は現実世界の図書によって惹起されました。アンナ・ハーレントや有吉佐和子や岡崎京子の作品に触れつつ、何となく同じテイストの季節を歩むのです。同世代の方々ならお分かりいただけるかもしれません。ティナ・ターナーのWhat’s Love Got to Do with Itのパンチと哀愁とガタガタ肩を揺すられる感覚にぼうっとし、チャカ・カーンのThrough the Fireのラスト近くの突き抜けるような高音の伸びに置き去りにされながら胸を打たれ、そんな曲を聴きながら山田詠美の「メイク・ミー・シック」を生唾を飲みながら読む。ハスキーで、懐が深く、罪つくりなスマイルで魅了する、人生のすいも甘いも知り尽くした大人の女性の世界。その妄想世界で私はシンイチではなくコカコーラのCMに出てくるような爽やかこの上ない健やかで突き抜けた笑顔の似合うイケてる青年でした。ドライ・マティーニを飲み干しながら別れと出会いとを繰り返したのでした。そんな季節を飾った一曲、そして季節の終わりを告げた一曲が鈴木聖美の「TAXY」でした。
名古屋市営地下鉄の中、ソニーウォークマンからのヘッドフォンからの素晴らしいこの歌い出し
TAXYに手をあげて Georgeの店までと
ソウルにソウルが絡まるようなこの声色に完全に魅了され、鳥肌が立ち、恋に翻弄される女性の切なさをじわじわとかみしめていると、あの天女が■おめでとう、もうあなたは十分学んだわ。これ以上ここに止まってはダメ。行きなさい。現実世界へ行きなさい■と告げたのでした。地下鉄中村公園駅を出ると駅前のミスタードーナッツでいくつものカップルが笑い合っていました。嗚呼、そのときは!そのときだけは!劣等感はどこかへ行ってしまっていたのです!私は、スーッと、何というかスーッと平然とミスタードーナッツの前を通り抜けたのです!僕は!大丈夫!誰かわからないけど天女さん、僕は大丈夫です!!
今思えば全く大丈夫ではないけれど、でも、NO MUSIC NO LIFE 。
院長 岡崎伸一