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自意識ドリップ喫茶店
福岡六本松に渋いジャズ喫茶があった。店の名は「喫茶カビリア」。学生時分こういった落ち着いた雰囲気で大人な洗練された会話を楽しむとかそういう感じ要るなぁという甘い願いをぼんやり浮かべていた。そんなわけで扉を開けると、店内は仄かに暗めの照明、静かなジャズが流れていた。香り立つコーヒーの匂い、カウンターには年配のマスターが一人、穏やかな顔で新聞を読んでいる。ジャズとか知らないけど「ジャズと爆弾」という対談集なら知っていた。「破壊せよ、とアイラーは言った」も読んだ。でもジャズそのものは知らなかった。これは挑戦、そう、この空気に馴染めるのか男子畢生の挑戦だ。自意識をポタポタ垂らしながらあえて店の奥のレコードが壁一面びっしりのコアな空間に進んでいった。片岡義男の小説の登場人物になりきり、クールにオーダーをする、手筈だった。が、ざわざわする恥ずかしさに巻き込まれ、浮き足立ちながら想定の1オクターブ声はうわずり「す、すみません、カップチーノください。」そうした上滑りな青年を何人も見てきているのだろうかマスターは落ち着き払った優しい笑顔で「はい」と応えてくれた。嬉しかった。救われた。人の優しさって素晴らしいと感激した。そして調子に乗った。ジャズなど聞いたこともないくせに調子に乗って「流す曲リクエストしてもいいですか?」と言ってしまった。「何がお好きですか?」マスターは笑顔。「何?え〜と、何?え〜と(ここで知ったかぶりでアイラーとかコルトレーンとか名前だけ聞いたことのある、ぽいものを言うのではなく、本当の自分の正直さに近い所で言わなくてはならない!と言う自己圧力がかかったのです)伊東ゆかりとか・・・あれ?伊東ゆかりはジャズじゃなかったっけ?あ、思い出した!阿川泰子とか!」知りうる限りの「ジャズ」を絞り出したらこうだった。それでもマスターは優しかった。「ごめんなさい、阿川さんのレコードは置いてないのですよ。まぁ、ゆっくりしていってください。」
これだ、これが大人だ!瞬時に相手の力量を見定め、話をここで切り上げて相手を追い詰めない、そして優しい声かけでその場を収める、大人っス、感動っス!
自意識過剰クンが焙煎されて落ち着いた大人にドリップされる、その一滴だった、ような思い出。
院長 岡崎伸一
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