美しいこと|新清洲駅の歯科・歯医者なら、岡崎歯科

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美しいこと

母は人の「格」と言うものを大切にしていた。「きちんとしなさい」「整えなさい」と子を諭す、規律と風紀というものに重きを置く人だった。小学校時代、家族でNHKの歌番組を見ていて沢田研二が登場、「ス・ト・リ・ッ・パ・ー」を色気たっぷりで歌い出した時、家族の時間は変容した。その歌詞の生々しさに私は生唾をのんだ。「俺の全てを見せてやる。お前の全てを見たい〜」とサビが流れた後、家族の沈黙を切り裂くように母が

「いっやらしい〜歌だわ〜!これは!」と言い捨てた。そして「NHKも終わりだわ!こんないっやらしい歌流して!」と立ち上がり、テレビのチャンネルをカチャカチャと替えた。そして教育テレビにした。教育テレビでは堀口大學という文学者について特集が組まれていた。母はいささか安心した感じだった。規律に満ちているはずの教育テレビが扱った堀口氏の真髄は「エロス」とのことだった。その言葉を母は知らなかったのか、隣の父に「エロスってどういう意味?」と聞いた。

父は前を見たまま表情を変えず

「美しいこと」

と言った。

母は「なるほどねぇ。」と安心した表情を見せた。

私たち家族はそのまま堀口氏の論考について視聴し続けた。

普段全く仲のよくない父母がみせた一瞬の、奇跡のようなやりとり。確信的なのかズレているのか、夫婦とは、わかり合えてもわかり合えなくてもどっこい夫婦なのだ、と思う小学生の私でした。

院長 岡崎伸一