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バカヤロウが愛の言葉だった時・後編
その大事な県大会の初戦。大事な大会、大事な大会・・・ガチガチに緊張して、腕は縮こまり、コントロールを失った。なんとか持ち直そうとしたが、初戦敗退。ベンチのTの、バカヤロウと吐き捨てる口元が見えた。大きなチャンスを逃した喪失感と情けなさ、それはTも同じ、いや、それ以上だった。試合後会場中に響き渡るようにTが「オカザキ!ちょっとこい!」と怒鳴った。そして部員全員が集められた。試合会場の外に出ると、Tは部員全員に「人で囲って中が見えないようにしろ!」と言った。
輪になって囲われた中に私とT。
Tはいきなり張り手をした。
私は面くらい、思わず身をかがめた。
「逃げるな!」Tが怒鳴る。
逃げてはいけないやつだ!必死に状況をのみ込もうとした。
Tは私を睨みつけ、「これはお前の弱気に対してだ」と再び平手打ち。
それでもTの眼はこちらを見据えたまま、再度平手打ち。
Tは制御し難い悔しさを、これ以上ない直接的な形でぶつけている、今。受ける私はその圧倒的な直情に立ちすくむことしかできなかった。人の本気に身体が揺れる、それは人生で味わったことのない瞬間だった。同時に、Tが嗚咽するように声を詰まらせながら張り手をしてくるのがわかった。蔑みや諦めではない、真剣に関わってくる人間の凄みが骨身に沁みた。そのまま、(囲っていた仲間のカウントでは)16発をもらった。
決して美談ではない。体罰としては現在では看過されない話。でも、自分を信じて疑わず、期待を向けられ、同時に剥き出しの感情を向けられるということが、少なくとも自己卑下感に埋め尽くされていた当時の自分には間違いなく必要だった。今年の夏もまた仲間が集まり恩師のTと酒を酌み交わす予定。毎年この話を肴に。
院長 岡崎伸一