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アタマヨクナーレ
高校3年生、数学の時間に当てられて黒板の前に立ち、全く出だしすら書けず、ううううと唸って小さな声で「わかりません。」と頭を下げてすごすごと席に戻りました。
数学教師Sは「オーカザキ、おまえあかんなー」と首をコキコキ。
すると次に当てられた出来る女子のMさんが「はい」と澄んだ返事をしてスーッと前へ出て、チョークをなめらかに走らせ、カリカリカリとスピーディに書き連ね、最後に「よって」と声を出し、解答し、「以上です」と締めたのでした。「完璧」と教師S。
げげっ!感嘆、羨望、情け無さ・・・色々、そう、色々感じて、青ざめて、「どうする?俺?」となったわけです。やばい!何とかしなくては。その学校帰りに書店正文館に劣等感エンジン全開で転がって行き、店内の参考書コーナーを「アタマヨクナーレ」と呟きながら自分の窮地を救う一冊を探したわけです。目に止まったのは『大学への数学』という受験生向け月刊誌でした。それはかなりの学力猛者しか手を出さないようなハイレベルの噂高い本でした。圧倒的劣等生生だった私には無謀な選択に思えました。数学が得意になりたい、数学の真髄に触れたいという崇高な志ではなく、もう、青ざめたくない!出来れば黒板の前で超クールに数学の解をスラスラ書いて「以上です」と言ってみたい!周りがグーの音も出ないほど数学強者になる!さらにそれをきっかけにモテたい!という卑近で青すぎる動機でした。誌面を開けば、当然のように歯が立たない問題が並んでいます。何を聞かれているのかすら曖昧な設問にも無理やり向き合うしかありません。解説を読んでもなお、理解したのかどうかすら怪しい。「大学への数学」を理解するために前段階として青チャートと教科書で勉強する、という日々。目標の歯科医師になるにはお金のかからない国立大しか道は無いと言う家庭事情もあって頼むからアタマヨクナーレと呟きながらの日々でした。不思議なことに、毎日無理矢理少しずつ続けていると、ほんのわずかですが、わかった、という瞬間が出てきました。解答へ導く補助線や問題中に二重三重に編み込まれた方程式の束を解いていき、その全貌を暴いた瞬間のスリリングさに気づきました。気持ちは昂りました。「大学への数学」の甲斐あって、ある日黒板の前に立ち、4行くらいチョークを走らせることができたのです。自分では「以前よりかなりできてきている」手応えでした。が、数学教師Sは「相変わらずあかんなー」でした。レッテル上等、待ってろ、もうすぐ本気出すでな、と思いながらも、その後卒業までレッテルを外すことはできなかったのでした。
院長 岡崎伸一
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