歯医者の本音⑤ 歯を守る、以上にあなたを守る|新清洲駅の歯科・歯医者なら、岡崎歯科

電話をかける
WEB予約
お知らせ

お知らせ INFORMATION

ブログ

歯医者の本音⑤ 歯を守る、以上にあなたを守る

歯科医療にとって「できるだけ歯を残すこと」は不動の使命です。自分の歯に勝るものはありませんし、歯を失わずに済むことが、心身の健康にとって大きな意味を持つことは間違いありません。「歯を残す」ために全力を尽くすことこそ歯科医師の矜持です。しかし、すべての場面で「残すこと」が正義とは限りません。特に、すでに多くの歯を失っていて、残された数本の歯と義歯(入れ歯)とでお口の機能を支えていくようなケースでは、考え方を少し切り替える必要があります。このような場合、主役は“残っている歯”ではなく、“義歯”になります。残された歯は、義歯が安定して機能するための“土台”や“支え”としての役割を担うのです。ところが、無理に機能しない歯を残してしまうことで、かえって義歯が不安定になり、周囲の歯や歯ぐきに悪影響を及ぼしてしまうこともあります。そのため、時には「この歯はあえて抜いて、全体のバランスを整えた方が良い」という判断することもあります。そうすることで、結果として義歯が安定し、お口全体がより良い状態になることがあるのです。こうした「抜歯も一つの選択肢である」という考え方は、一般にはあまり語られていません。そのため、いざそのような提案を受けると、多くの患者さんは「なぜ今ある歯を、それも痛くもない歯をわざわざ抜くのか?」と疑念や不安を抱きます。時に「先生は歯を抜きたがる」とお叱りを受けることも少なくありません。しかし、例えば、すでにしっかりとした支えにならない状態の歯を無理に残したことで、義歯がうまく安定せず、結果として義歯を支える大切な顎の骨が次第に吸収されてしまう――そんな事態も実際に経験し、「取り返しのつかないことをした」という罪の意識、そして後悔を背負ってきています。つまり、「歯は残せたけれど、義歯の土台であるご自身の骨が失われた」という、より深刻な問題を招いたのです。だからこそ、私たち歯科医師は、その歯が「本当に残すべき歯かどうか」を、機能面や長期的な安定性の観点から慎重に見極めなければなりません。そして、もし「抜くことが全体の利益になる」と判断した場合は、その理由と見通しを、できる限りわかりやすく、丁寧に、そして勇気を持ってお伝えしなくては、と肝に銘じています。時に説明に熱が入ってしまうこともあります。「ここが大事な局面、なんとしても伝えなくては!」という気持ちが先走ることもあり、でも、そんな感じでは患者さんの疑念は払拭できないこともわかってはいるつもりなのですが・・・患者さんにとって「歯を抜く」という決断は、簡単なことではありません。だからこそ、私たちには十分な説明と誠実な対話が欠かせません。もし、将来的に生じうるリスクをあらかじめ予測しながら、それをきちんと説明せずに治療を進めてしまったとしたら――それは、私が歯科医師としての責任を果たしていないということです。歯を守ることも、抜くことも、どちらも「患者さんのために」という一点に立って選ぶべきものです。私たち歯科医師は、一つひとつの歯だけでなく、「お口全体」「その人の生活全体」を見ながら治療計画を立てています。「どの歯をどう活かすか」「どの歯は手放すべきか」――それは決して簡単な判断ではありませんが、最終的には患者さんの生活の質(QOL)を最も良くするために考え抜いた末の一滴です。いうまでもなく最終選択は患者さんに委ねられます。しかし、この考え抜いた一滴に触れていただくことこそ当院を選択いただいた患者さんへの真摯な対応だと考えています。  

院長 岡崎伸一